インテリアデザイナー森井 良幸氏とリビングハウス代表北村甲介による対談。森井氏の現在の活動をはじめ、日本のインテリアデザインの現状など沢山のお話をいただきました。

プロフィール

森井良幸(もりい よしゆき)

1967年京都生まれ 1996年 株式会社カフェ設立 時代に合わせた考え方と、使い手の考え方、人、店な何を求めているかを合わせそこにデザイナーとしての個性をプラスしてデザイン業務を行う。ベースをシンプルにしアート等に職人の技を取り入れながら他にはない新しいものを創造する。 ホームページ:http://www.ca-fe.co.jp/

対談

北村- 今日はデザイナーの森井さんにお越しいただきました。どうぞよろしくお願いします。 森井- よろしくお願いします。 北村- よくFacebookで見させて頂いてるんですけども、色んなとこ行ったりされてお忙しそうなんですけど、大体いくつくらいのプロジェクトが同時に進行しているものなんですか。 森井- 大体50物件くらいで、減ったり増えたり。物件で期間が違うんで、最短で3ヶ月、長かったら3年以上掛かるプロジェクトもあるんで、それが減ったり増えたり、重なったり削られたりとかって感じでそれを大体こう。 北村- その50は大体どういう内訳なんですか。飲食とか、ブティックとか。 森井- 物件数で言えば、大きくなればなるほど少なくって、ちっちゃくなればなるほど少なくって、平均的に言えば20坪くらいから100坪ぐらいの、飲食店とブティックの物件が大半を占めながら、個人住宅、商業施設の建物のデザイン、駅前の開発、それらを自分の所のレストランのメニューとか、小さいところからやるというのが僕の仕事です。 北村- 先ほど始まる前に、森井さんの職業って一言で言うと何ですかねみたいな話をしてたんですけども、大きくインテリアというものに携わられて、元々のきっかけは何だったんですか。 森井- はい。幼少の頃からファッションか、建築というものに興味があった。 北村- 幼少というのはいくつくらいですか? 森井- 小学校後半ぐらいかな、中学校ぐらいかな。絵しか描けなかったんです。 北村- 絵、ですか。 森井- 勉強ができなかったんです。ですんで意識がそっちに行った。 北村- はい。 森井- で、父親が京都で呉服屋さんをしていた。ですんで自分は商売をあまりしたくないっていう、要は商いに対して抵抗感があったんです。仕入れたものに乗っけて売るだけの行為というものに対して抵抗があって、僕は自分で創造したものを売る商売というか、自分が考えたことがお金に変わるような仕事がしたいってのが子供の頃にあったから、ずっとそれを意識して、勉強はできなかったんですけど、芸大系に入ったと。中退しましたけど。 北村- その時、ファッションとインテリアって、結局最終的にインテリアになったんですけど、ファッションの可能性もあったんですか。 森井- ファッションも行こうかなと思ったんですけど、あまりに変化のスピードが早過ぎるから自分では難しいかなと思って、建築に入った。建築学科で勉強しながら、してるつもりだったんかな。してるつもりがしてなくて、中退したと。 北村- なるほど。もともとそういうのを目指されて学校に行かれて、そういうお仕事されてる訳ですけど、実際なってみて、想像通りだったんですか。好きな事を仕事にすることって難しい側面もあるじゃないですか。 森井- なった時が想像通りかというと、想像しなかったんで分からないです。ただ、こういう方法でお金儲けたいなって考えか、自分はこれが好きだからこれしか出来ないっていう生き方なんで、基本的には好きでやってる。それをどうお金に直すかっていう行為でずっとやり続けているだけです。 北村- なるほどですね。例えば、服のデザインの人は、流行とかも当然考えますけど、ゼロから十まで全部自分で創り出す仕事じゃないですか。で、森井さんのクライアントの方にお店の内装をされる時に、その人がどうしたいこうしたいというのがあって、それにご依頼を受けて森井さん流の形に変えて創られる訳じゃないですか。ゼロから完全に十まで創り出せるのと違うものがあるじゃないですか。その部分というのは、どうやってバランスを取るというか。 森井- ゼロって? 北村- 服を作る人って、なんにも無いところから描き始める訳ですよね。 森井- いいえ、体(からだ)がある。 北村- どういうことですか? 森井- 体っていうゲインがあるんです。だから、ゼロって言うことは多分ないと思うんです。作るにおいて既に理由がはっきりしてるから、多分ゼロ発進て言うのはないですね。ゼロがあるとしたら考え始める時。そこに、ファッションで言ったら体、建築で言ったら地形、インテリアで言ったら空間、っていう全てのベースのゲインがあって、あとは時間と予算、それをどう振るかという問題点に対して解決できるものが形になっていって、売れるか売れないかで実際解決できた、売れなかったからできなかったっていう答えを出すのがデザインという行為かなと。 北村- 森井さんのお仕事で、最終的に合格だったか否かっていうのはそのお店が流行る流行らないという要件があると思うんです。当然そのお店の元々のサービスなり商品のことも関係しますけども。 森井- 理想を言えばそこの商品のサービスぐらいまで入っていって売れるように持っていくってのが商業デザイナーとしての本当の仕事だと思うんです。商業デザイナー。アキナイ業デザイナー。流行りの店を作らなかったら、僕らの場合は仕事はなくなるんです。評価がないんで。デザインかっこ悪かったら、やっぱり商いされるってのは、流行る可能性のあるデザインしてるから依頼したいというのがあると思うんで。やっぱり違うかな。 北村- お仕事で、クライアントの方のデザインをすることと、ご自身で経営されてる飲食店される時と、違いってあるんですか、自分の中に。 森井- 自分のお店のデザインはあまりできない。 北村- どういうことですか? 森井- クライアントのお店ってのは力がはいるけど、自分のことに関してはあまり力が入らないから。自分の店ってのは、最近ちょっと見れるようになったけど、それまではうちのスタッフの、若い子の練習台みたいなもんです。だからめっちゃ失敗。自分の店が一番悪いですよ、ずっと。なんでそんなかと言うと、自分の持ってる一日24時間、一週間、一ヶ月という時間を、なるべく自分ごとに使わなくってクライアントの方に使うのが良くないかなと思って。もともと自分の方にはあまり時間を使わないようにはしてました。 北村- ああそうなんですね。で、ご自身のお店だろうが、クライアントの方だろうが、例えばお食事に行かれるとインテリアも内装も気になるでしょうし、食事も、飲食のお仕事ををされてるので気になるじゃないですか。そうすると、食事に行くという、外食するという行為が、半仕事というとおかしいですけど、しんどくなることってないですか。 森井- めちゃくちゃ真剣に見たらしんどいから、めっちゃ真剣に見ない程度に見てるかな。それぐらいしか人見てへんかな。ほんま言うと別に飲食しなかっても外出たら... 北村- 全てが、風景があるんですよね。 森井- これ直せばええんかなあと。建物もこんなんやなと。入ったら別に飲食やなくてもブティックもそうやし、駅入ってもそうやし。全部気になるんです。気になり始めたらイライラしてくるから、どっかで抜いてるんでしょうね。 北村- あとインテリアのことでお聞きしたいんですけど、欧米と日本で、特に一般消費者のインテリアに対する興味度というか意識が相当開きがあると思うんですけども、ドイツって家具、インテリア先進国なんですけど、ドイツの国民一人あたりの家具、インテリアに費やすお金が日本人の5倍なんですね。そういう統計があるんです。でも今日本も、森井さんがお作りになられているお店だとか、おしゃれなお店とかホテルって、明らかに増えてるじゃないですか。昔と比べると。都会はですけど。一般の人はそういうところに触れる機会が増えているのに、自分の家の中に対する興味、意識が上がらないのはなんでなのかなっていつも思うんですけど、どう思われますか。 森井- 単純じゃないですか。家に人を招かないからですよ。見てもらうものにはお金を使うと思うんです。服だったり、髪型であったり、オレの時計を見ろとか、ボクの靴を見ろとか、ワタシの車を見てとか。ここワタシの家やねんとかマンションやねんとか、外装まではお金かけるんですけど、家の中まで人を入れるってことが少なくって、やはりもう少し人に見てもらって誉められたりとか自慢ができるようになったてくると、もう少し変わってくるのかな。どっちかと言うたら今日本て外見(そとみ)が大事で、中は、フェラーリ乗ってるのに家はちょっとみたいな人も多いんで、そういう意味では内側に対するお金の使い方ってのがよくないのかも分からないです。 北村- それは、日本人が見栄を張る、人に見られたいという意識がずっとあるからということですよね。 森井- 人を招かなくなってきてるんです。特に都会のマンションなんて、もっと招かなくなってるんです。自分だけのスペースみたいになって。それこそ昔の家ってのは家族とか親戚が集まるから、凄いテーブルを買ったりとかってのは昔はしてたと思うんです。日本家具が売れた時代は。今はそういうこともなくなって、座れたらええわ、ご飯食べられたらええわ、どうせ傷むから。という意味になってくると、そんなにブランドもこだわらず、ほんとに心地みたいなものを保っているものもあらず、安いものを購入して傷んだらまたその次を買おうという考えになっている。 北村- 人を招くというのは、文化が変わらない限り良くはならないだろうなという感じですかね。 森井- 人を招くというのことは結局家族で楽しむということやから、家族と家族が楽しむような生活が若い人も含めて僕らの世代とかもどんどん少なくなって、逆に言えば、外で楽しんで家では全然楽しまないと。ちょっと話が暗くなってきましたね。でもそれが実際の日本です。ある程度のレベルの収入が入った方は結構そっちまで気が回るんで、招く招かない関係なしで自分の世界としての部屋を創ったりするんですけどね。だから遊び方を変えていかなかったら、家具も伸びない。 北村- そうなんですよ。 森井- それをどうするかやなあ。難しいことやねえ。 北村- 難しいんですよ。当然供給側の努力不足っていうこともあるんですけども、根底の部分っていうのが、先ほど仰っていただいたこともそうですし、そもそも日本人が家具を買うといったら、マンションを買うとか家を建てる時と結婚する時くらいで、この様相って、今は日本もマンションの建つ数も減ってますし、結婚してる人の数も減ってるんで、このままでは家具、インテリアの需要が生まれる機会が普通に考えたら減ってきちゃって、かつ、先ほどのように文化的な側面もあると日本のインテリアが良くなっていく要素が難しいところがあるんですけど、じゃあどうして行こうかというところなんですよね。 森井- まあ今日言って明日治るなんていうこともないんで、それを徐々に変えていくような生活の提案をして、それを日本人ができるのかどうか。なんて言ったらだいぶ先の話になる。 北村- そうですね。 森井- 難しい。日本人、アジア人の気質かな。アジアでも特に日本かな。韓国もそうかもわからんけど。招いた時に奥さんが真面目に料理するんですよ。実際にパーティする時に、奥さんがパーティに入ってかない。でも欧米の場合は出来合い風で、奥さんも参加しながらパーティするんです。 北村- みんな持ってきますしね。 森井- そうそう。もしくはどっかからケータリングする。そういう遊び方がわからない、結局奥さんがしんどいんで、やりたくない。 北村- やりたくない、はい。 森井- 「最後に皿を洗うのは私だけでしょう?」。アメリカだったら紙でポイポイってやったらもう終りだから。遊び方が分からないしパーティの仕方が分からないんで、人を招いてどうやって遊んでいいかってことを、インテリアのデザインを提案する前にライフスタイルの提案をどんどんどんどんしていって、初めてそっち側に、じゃあ人を招く時に買うとか、自分がどう思われたいから買うとかいうのは変わっていくのかな。まあ時間掛かりますよね。 北村- めちゃくちゃ掛かりますね。少しずつ一昔前よりは、なんとなく消費者の関心が増えていってるのは感じますし、地震の後なんかは家で家族と過ごす時間が増えてると言われてるので、そういった延長が、家にちょっとお金を掛けようとか、関心が持つようになってくれればいいなというのはあるんです。 森井- そうねえ。家具って意外と毎日使ってて、金額の割で、使ってる年数から割っていくと意外と安かったりするんですよね。洋服のほうが全然効率が悪かったり、車なんてもっと効率が悪くって。ソファーって意外と長いんですよね。ソファー以外もそうですけど。そういう考え方もなかなかできないし、してないから、ついつい人に見せられない、とりあえず座るという行為だけで終わるんだったらばこんなんでええって思ってしまうところの環境があるんやないのかな、日本には。 北村- あと日本は家電が進んじゃってるという部分もあるんですよね。プラズマのでかいテレビでも置いてなんてのは一般の家では少ないですし、自分の収入に占める、出す先。どうしても大型テレビとか大きな冷蔵庫とか、家電への支出が多いのでインテリアに回らない部分もあるのかなと思うんですけどね。 森井- うーん。さっきと一緒。課題も多分。難しい問題ですねえ。 北村- ましてや、ハコも小さいですからね。 森井- 車って常にハイテクが入りながら、家電も同じ事、ハイテク機能だから、商品鮮度が凄く高くて、まあ劣化も早いんですけど。てことは常に新しいものを追いかける地位になってる。ひょっとしたら一戸建て住宅もそうかな。よく分かんないですけど、耐震とかいろんなことで鮮度保ってる。ただ家具に対して新しい技術はなかなか入って行かないものなんで、あくまでも形状だけだから、鮮度がないから、その家具を使ってても「あ、オレ遅れてるわ」って感じもないし、「これグレード高いわ」っていうのもなかなか感じにくい。ていう意味では家具に、どういった内容か分からないですけど、動作鮮度を保ち続けるかってことは逆に変えていける一つの要素かもしれない。 北村- そうですね。 森井- でも洋服で言ったらアクセサリーみたいなもので。アクセサリーですよね?服は傷むけどアクセサリーは傷まなくて、意外と10年、20年使うから、費用対効果としては高いはずなんです。 北村- 時計なんて毎日しますからね。 森井- そうです。時計とかそういうものは。そういうもんとどう近づいていって、もうちょっとお金を出しやすくなるか。時計とアクセは着けてて、綺麗ですねとか、良い物はめてるねって言われるのが嬉しくて、意識して購入する。家具の場合はそういうところを作っていかんと。だけかなあ。人ってそれだけかと思うと寂しいですね。 北村- まあでも最終的にはそれが答えだと思うんですよね。なかなか一朝一夕にできることではないですけど。 森井- 多分良い家具買ったら見せたくなると思うんですけどね。でも家具に対する知識は全体的に低いと思いますね。 北村- そうですね。反面店舗の内装やインテリアは、日本も欧米諸国と比べて劣ってることはないと私は思うですけど、その辺も劣ってるんですかまだまだ、平均値でいうと。そんなのは日本もかなり進んで行ってるんですか。 森井- 劣ってないでしょう。 北村- 劣ってないですよね。それはなんでですかね。 森井- 外に出ることが好きな人種やからちゃいますか。外食産業は日本は発達してますから。スタイルは違うんですけど。食という文化では日本はファッションという意味では先進国という筈ですけど。 北村- ファッションは多分一位か二位ですよね、世界で言うと。 森井- はい。外食産業も全然。それこそミシュランで三つ星取ってる店が一番多い国ってのは日本ですから。そういうレベルっていうのは日本は高い。断トツ、衣食住の住が遅れてる。でも、住の中でも雑貨は意外と進んでる筈なんです。 北村- フランフランでも、アジアに行ったらどこでも通用するやろうなって感じがしますし。 森井- その手の住系雑貨というのはたくさんあって、結構貪欲というので、意外と世界の細かいところに行ってるのもあるんですよね。 北村- ということは、実は多少は興味があるという訳ですよね、家の中にも。 森井- 小さく? 北村- 小さく。安く。 森井- 安く。興味あるのかなあ。うーん。まあねえ。あとはなんやろうなあ。家具自体、僕、好きじゃないからかなあ。欧米の場合は靴を履く文化なんで、全てが全てじゃないと思うんですけど、この家具はおじいちゃんの時代からあった、このソファーはおばあちゃんから貰ったってのがあると思うんです。 北村- ありますね。 森井- 僕もアメリカにいた時にアメリカ人の家の引越しを一回手伝った時があって、まあこの人は物を捨てへんなあ。捨てそうなもんでも質屋に持ってくんです。日本ではこんなん捨てるのに、この人は質屋に持ってくんやっていう、物に対する姿勢がちょっと日本人と違う。でもそういうもんでも彼は買い取って、またこう、買っていく。ということは、別に収入が高い人だけが良い家具に恵まれてるって訳じゃなくて、お金がない人でも家具っていう環境が、アンティークとか中古品でうまく手に入るので、いい環境ができてるのかな。所得の低い人も高い人も、そういうセンスの持ってる人だったら、お父さんおじいちゃんの世代からずっと教育を受けてる。 北村- なるほど。 森井- 例えば和風の家に育っても、箪笥一個ぐらい、屏風、あとテーブル、お膳ですね。そういうものは引き継がれているんですけど、基本的に親から貰ったソファーなんかってものは、僕ら以降の世代なんで。 北村- ジェネレーション一個くらい変わっていくと、それも変わってくる可能性はありますよね。 森井- はい。今年から平成の新卒も出てきたんで、それぐらいの年代から意識が変わってくるかも分からないですけど、でもまだ第一周目なんで。欧米はそれを何周もしてきたんで、やっぱり違う、かな。 北村- いろいろ世界を見られて、例えば日本にはこういう感じないけどっていうような印象深いインテリアショップってありました? 森井- 日本にない、海外で良いインテリアショップ? 北村- はい。日本にはこんな店なんてないだろうって。 森井- 世界で一番いいインテリアショップ、ABCカーペット。 北村- ABCカーペット。どこですか。 森井- ニューヨーク。マンハッタンにあります。 北村- 何が良かったんですか。 森井- 古いものから新しいものまで全て手に入って、その店一軒あれば僕は住宅もお店もなんでも作れますから。 北村- そこで売ってるものでですか。そこは大きなお店なんですか。 森井- ある程度大きいですね。ちょっとした百貨店ぐらいですけれど。アンティークから雑貨もあって、照明、家具、なんでもある。もちろんカーペットもあって。素晴らしいお店です。 北村- 日本だとないですね、なかなかそういうものは。 森井- うーん。 北村- 需要がないのはあれですけど。 森井- うーん、需要がないんちゃいますか。 北村- 需要がないんですかね。 森井- 全然話は違うんですけど、ニューヨークとかヨーロッパって、マンション買っても価値落ちないんですよ。分かります? 北村- ええ。 森井- 日本のマンションは買った時から劣化が始まるんです。 北村- 鍵開けた瞬間、30%落ちるって言われてますからね。 森井- はい。僕もいろんな不動産の人と話してるんですけど、ここ20年間の不動産購入されてる方は全員損してるってはっきり言ってはったんで、日本てそういう国なんです。僕は2年ぐらい前、ニューヨクのあるローヤーさんと仕事した時には、マジソン沿いの上のマンションを購入されて、なんぼやったかな。5億でぐらいで買ったと。でも多分売るときはそれ以上で売れるだろうと。これ築何年なんですかと訊くと、100年ぐらいだと。マンション自体がビンテージなんです。中古じゃなくて。パリも同じ事ですよね。石造りで、朽ちない建物で、もちろん地震もないし、劣化していかない。ビンテージって言葉が明確かどうか分からないですけど、今より価値が付いて、より一層値段が上がっていくという環境の中で育ってるんで、そういった意味での考え方も基本的に違う。日本は全てが劣化の始まりやっていう。もともとはそういう文化じゃなかった時に生まれたくせして、今は日本じゃそういう文化になってしまっている。多分木造建築がきっかけか。始まりか。もとは木造の国なんで、劣化するってことが頭の中にあるんかも分からないですね。そういう価値観をどう変えていくかってところがなかったら、なかなかそういう買い物がしにくいのかな。 北村- 日本だとどうしても、新品がいいみたいなのがありますものね。どんなものに対しても、比較的。中古って言うとイメージが悪いというか。その辺は確かに違うんでしょうね。 森井- 中古は嫌やけど、でもビンテージはみんな好きでしょ。 北村- そうですね。 森井- 最近、若い子が社内でもビンテージ持ってますよ。中古ちゃうんか。中古なんか嫌や、ビンテージがいいわみたいな。その差は微妙なとこなんですけど。でも確実に言えるのは、アンティークになる家具と、中古というゴミになる家具と、二種類あると思うんです。でも、最初に言った本物を買えば確実にビンテージになるし、安物を買うとただのゴミになるから、最初に買う時にある程度見極めてお金を出せるような、接客していった方がいいんじゃないですか。 北村- なるほど(笑)。いやでも本当に仰るとおりだと思いますね。 森井- そうなるように家具のデザインをしていくことも、デザイナーさんの責任かなと。雑貨にならないようなね。いま日本人はどちらかといえば、雑貨っていうインテリアグッズしか買ってないんです。雑貨。ビンテージにならない。とりあえず全部雑貨ですよ。その次の日から商品が劣化するものしか買ってない。 北村- そうですねえ。確かに。 森井- それを、全て劣化しない商品にMDをどう落とすか。 北村- 価格もどうしても上がっちゃいますけど。それはさっき途中で仰ってましたけど、何年使うんやって話ですからね。 森井- そうそう。安物買いの銭失いって言葉が昔から日本にもあるように、安いものが得とか絶対ないんで、高くて良い物という部分なんで。それは電卓、もしくは暗算で直ぐ「5年使うなら絶対お得ですよ」と言えるようなものを作ればいいんじゃないですかねえ。 北村- そうですね。最後に、お金を掛けてとかそうじゃなくて、個人の人が自分の住宅、まあマンションだとして、簡単にできる、こういうふうにしたらそんなにお金を掛けずに部屋が快適に、お洒落になりますよというのは何かありますか。 森井- 頭と時間を使う(笑)。 北村- ただ頭をつかうというのはなかなか難しいと思うんですけど、心持ちのことでもいいんですけど、こういうふうに考えたらいいんじゃないというのとがあれば。 森井- 固定観念に囚われないことかな。マンションを買ったら絶対照明器具をつける位置が決まってるんで、そこに何かを吊ってしまうとその時点でスタイルが一緒になるから、「いや僕は吊らなくてコンセントからとったスタンドだけで行く」ってぐらいのことが多分大事かな。暗いのが嫌だからそういう照明器具が嫌っていうんですけど、暗いことに対しての味わいと言うたら変かな、暗いところも大事かなということも考えていくと、部屋の雰囲気が変わってくるかなと。家に蛍光灯をつけてガンガンやっている限り、そこの家は居心地良くないんで、結果、そこではパーティが出来ないんです。やっぱり照明の手法をしっかり考えて、簡単にできる光の効果で部屋に雰囲気を出して、この雰囲気だったら自分の家の汚い部分も見えないし、雰囲気よくて、そこでだったらパーティもできるねみたいなリビングを作れるようにしていくと、簡単にしながらかつ人を招けるような効果になってくるのかな。でも、ある教育を受けたりある経験をすれば簡単にできるんですけど、一般の方って意外とそんなんが想像つかない。 北村- つかないですね。 森井- それはサービスにノウハウを、スタッフに教育しながら緩和してけばいいんじゃないですか。 北村- なるほど。最後は上手い締め方をしていただいて(笑)。 森井- いやでも、自分らが器用にできるからみんなできると思ってしまってるんですけど、意外とみんなできないから僕に仕事が来るんだなと思ってるんで。 北村- そうですね。我々家具、インテリア屋さんの、お客さんと我々が持ってる知識、経験の差と、服屋さんだとお客さんと売り子さんなんてほぼ対等か、下手したらお客さんの方が知識ある場合もありますけど、家具、インテリアって絶対そうじゃないですからね。だから、言葉はあれですけど、ある程度教育的な指導をお客さんにしてあげなければならない部分も、絶対ある。それが家具、インテリアなのかなっていつも思うんですけどね。 森井- そうだと思いますね。あと家具屋さんは家具一台に対するカタログをもっとこう厚め。なんていうんですかね。さっき言った白物家電、白物じゃない家電もそうですけど、家電とかカメラとか金額に対してパンフレットが厚いんですよね。 北村- 説明書じゃなくてですか。 森井- パンフレットも説明書も厚いんです。パンフレットが厚いかな。カメラとか携帯電話とか意外と色々あるじゃないですか。たった一個の機能の為に。ソファーは意外と大雑把でしょ。写真ワンカット。中身どうなってんねんと。それは言葉だけなんかとか。そこで比較対照された結果、中の構造をこうしてますとかっていうのは、常に言葉の接客だけなのか、スリムになると信用度がるんで、スリムであるべきなのか。まあ家具って利益率そんなに良くないかも分かんないですけど、お客さんにしたら2,30万の買い物なんで、2,30万の買い物をしているときに、この単価に対してカタログの説明が一番少ないのが、実は家具だったんです。 北村- 他のものと比べてですね。 森井- カメラとか、バイクだとか。みんなバイクなんかパンフレット持ってきて見比べたりするじゃないですか。家具屋さんの場合は家具屋さんのカタログ一冊。しかも、自分の欲しいものは一ページ。もっと言うと、他のものを比較検証してる他の雑誌も出てるのに、家具を比較検証してる、外面的な検証をしていても中身的な検証をしてる本もない。買う基準も分かんない。家具業界、意外と熟成してないですね。 北村- ほんとにそれは仰るとおりで、そういう部分も含めて、我々の小売業もそうですし、メーカーさんもそうだと思いますけど、業界をあげての今までの努力不足というか、変革してきてないんで、なかなか産業としても成長してきてない理由の一つでは間違いなくあると思うんですよね。 森井- うーん、なるほど。分かりました。 北村- 最後は我々のアドバイスをたくさん頂いたようで、ありがとうございます。参考にさせていただいて、実践させていただこうと思います。今日は本当にありがとうございました。 森井- ありがとうございます。